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序章バージョン2
2007-01-15
「空は、世界と繋がるってどういうことかわかる?」空、と呼ばれた少年が頭を大きく横に振った。三回も交差した。
思わず私も笑みがこぼれた。
「そうねぇ、わかりやすくいうと、繋がった世界を何でも思い通りに出来るの」
空は腕組みをする。むむむと呟きまで漏らしながら、しかし答えが出ない。
「クッキーつくれ! とかもいいの?」
考え抜いた結果、お腹がすいていることに気がついたようだ。私はまた笑う。今度は大きく。残念ながら、おやつの時間はまだまだだ。
「そうそう、でももっとすごいことも出来るんだよ? 例えば、ほら。いじめてくる兄ちゃんの足の小指を箪笥の角にぶつけさせることも出来るんだ。痛いよ~すごく。そんなすごい力があったら、空は欲しい?」
あー、と嬉しそうな顔をした。でも、少年の嬉しそうな顔はそんなに続かなかった。
「それって、ぼくだけにあるちから?」
「ううん、空だけの力じゃない。兄ちゃんも持ってるし、そろそろみんな気づくと思うんだ」
本当は、空達だけの力だったんだけど。と、口ごもりながら付け足した。
「だったらいや! ぜったいいや! にいちゃんにそんなことしたらぼくどうなるかわからないもん!」
空は、必死に首を振る。そんなに兄ちゃんは怖いのだろうか。我ながら無愛想だとは思うが。あれはあれで弟想いではあるのだけど。どうも、私の想像の上をいくらしい。
「じゃあ、空はどういう力が欲しい?」
兄ちゃんに操られてる自分でも想像しているのだろうか。空はさっきよりも難しい顔をした。あ、目には涙まで浮かんでる。
「に、にいちゃんとめて!」
「あいにく、そばには誰もいません」
「え? じゃ、じゃあ、とめるちから! すごいちからをけしちゃう、もっとすごいちからちょうだい!」
思わず満面の笑みがこぼれてしまう。我ながら誘導がうまかったというか、息子の出来が良いというか。どちらにしても手柄は私か。
「そうだね、ちょっとおいで。止める力をあげよう」
おそるおそるといえばいいのか、空はどうにも空想の兄と戦い中で足取りがおぼつかない。それでもしばらくたって、私の目の前にきた。
「いい? ちょっと聞いて欲しいことがあるの」
「はやく! はやくちょうだい! に、にいちゃんが!」
自分がゆっくりきたのはもう忘れたのだろうか。む。ちょっといじわるしたくなってきたぞ。人が真面目な話をしようとしているというのに。
「はいはい、わかりましたわかりました。いくよ? 母ちゃんが言った言葉の後に同じ事を言ってね」
私は空の額と私の額とを重ねる。
「我は空に命ずる。我は空の回線者なり。我の心の敵を打ち砕くものなり」
拙い言葉で復唱している。笑う。これがいじわるになったかな。
するとだんだんと泣き顔が笑い顔になってきた。どうも効いたらしい。
「どう? 兄ちゃん消えた?」
そこにはもう泣き顔は無かった。
「うん! にいちゃんこなごなになった! なんかクッキーみたい!」
「こ、こなごな……あ、いやそう言ったのは言ったのだけど……いいのかな?」
言い終わったのも束の間、空から腹の虫が聞こえる。
「……もうクッキーたべていい?」
まだあれから時計の針は微動だにしていない。怠け者よ動けと言わんばかりの目だ。真剣に、すごく真剣に時計の針を睨んでいる。ふと、今ならば聞いてくれるかもしれないと思った。
「ちょっといい?」
「たべていいの!?」
睨む目に期待の色が追加された。
「あ、いやちょっと聞いて欲しいことがあるの。その力について」
睨む目に失望の色が追加された。少々怒りも追加だ。
「まったくもう……降参降参。母ちゃん負けた。クッキーとってていいよ」
返事もなしに走り去ってしまった。どっちにしろ今の空にいっても意味は無い。意味はないから、少し独り言。
「その力はね、すごい力だから生きていく上で災いでしかないだ。空にとって、本当につらくなると思う。でも、この理不尽な世界に必要なのは空、あなたなんだから。助けてあげて、みんなを、世界を……そして、兄ちゃんを」